今回の「まんまるの輪」も、前回に引き続き薬剤師・皆川卓也さんです。
月に一度、薬局の現状を一人が代表して全社の朝会で話す場があります。ある回で、皆川さんは話の途中で感情が溢れ、涙を流しました。その前日、皆川さんは福岡にいました。
訪問という仕事が持つ力について。そして、それをきれい事にしないために、どこまで自分を開くのかについて。皆川さんに聞きました。
朝会で、感情が溢れてしまった日
ある朝会で、私は話しながら泣いてしまったことがあります。
話していたのは、「私たちは患者さんを待つのではなく、こちらからご自宅へ行くんだ」ということでした。訪問という仕事が持っている力を、どうしても伝えたかった。
話しているうちに、この思い、届け——と思ってしまって。涙が出てしまいました。
実はあれには、裏側があるんです。
その前日、私は福岡にいました
妻の弟が、がんの末期で福岡の病院に入院しています。脳腫瘍で、もう目が見えません。ご飯も食べられず、意識も朦朧としていて、ほとんど話せないだろうと言われていました。
私と、年齢はほとんど変わりません。
本人は、「毎日生きているのが辛いから、延命はしたくない」と言っていました。
福岡ですから、なかなか行けるものではありません。それでも、会いに行きたいと思ってしまったんです。朝会の前日、妻と一緒に会いに行きました。
「来てくれてありがとう。すごく楽になったよ」
会いに行ったとき、彼はこう言ってくれました。
「目はほとんど見えないけど、来てくれて本当にありがとう。なんか、気持ちがすごく楽になったよ」
目が見えない。意識も朦朧としている。ご飯も食べられない。そんな状況下で、「楽になった」と言ってくれた。
もしかしたら、せっかく来たのだからと、気を遣ってそういう言葉を発してくれただけなのかもしれません。それでも私は、「会いに行く」ということは、そういう力を持っているんだなと思いました。
私自身、朝が来ないと思った夜がありました
そう感じられたのは、たぶん私自身が入院していたときのことを思い出したからです。
本当にもう、朝が来ないんじゃないかというくらい辛かった一日がありました。
その翌日、看護師さんや先生が来てくれたタイミングで、痛みが、すっと柔らかくなったんです。安心した、という感覚に近いのかもしれません。
お見舞いに来てくれたときもそうでした。ずっと気持ちが悪くて、スプーン一杯のご飯も食べられない状態だったのに、その瞬間だけ笑顔が出ている。
薬が効いたわけではありません。誰かが、そこに来てくれた。それだけです。
だから、訪問には力がある
だから訪問も、正直なところ、こちらから行って、少し会うだけでも——本当に、患者さんの辛いところは取れるんだと思っています。
ちょっとの優しさで、本当に痛みは飛ぶ。
ただ、これを毎日の当たり前の業務としてこなしてしまうと、そうはならない気がしています。
思いを乗せて持っていけば、患者さんには絶対に伝わる。それを、きれい事ではなく伝えたかった。そう思って話し始めたら、涙が出てしまった——というのが、あの日の裏側です。
きれい事にしたくないから、背景まで話す
正直、難しいなと思うことがあります。
「朝起きたときに、今日も働けて嬉しいと思える」——そう言葉にするだけなら簡単です。でも、なぜそう思ったのかという背景を入れないと、ただのきれい事になってしまう。
かといって、そこを押しすぎると、「自分はこんな辛い思いをしたんだ」とアピールしているようで嫌なんです。
本音を言えば、朝会でもあまりそういう発言はしたくありません。ネガティブに受け取られてしまうかもしれない。
それでも、せっかく話すなら、その思いまで届けたい。だから毎回、前置きとして少しだけ背景を話すようにしています。
会ったこともない人から、連絡が来ました
涙してしまった回のあと、実は数名から連絡をもらいました。
心配の意味も込めて、だったのかもしれません。でも、お会いしたことのない方からも、「響きました」と言ってもらえたんです。
最初、私はめちゃくちゃ反省していました。「ここで感情を出すところではなかったんじゃないか」と。
でも、会ったことのない人に直接連絡をするって、結構な勇気がいることだと思うんです。それでも連絡をくれた。伝えたかったことが、伝わった方がいたんだなと思いました。しかもその方は、それを行動に移してくださった。
「◯◯が何件ありました、以上です」では、何も残らない
薬局の現状を一人が代表して話す場は、月に一度だけです。
私はCB目黒にいるので、なかなかみなさんとお会いすることができません。だからこそ、そのタイミングで何か一言、自分の思いを伝えたい。
ただの定例報告ではなく、みなさんが手を止めて、聞きたくなるような話を一つ乗せる。それを自分の目標にして、いつも話しています。
病院時代は、本当に定例そのものでした。「◯◯が何件ありました。以上です」——正直、自分は何も頭に入ってこなかったんです。
でも、「この人、何か言うぞ」と思ってもらえたら、ちょっと手を止めて聞いてくれるかもしれない。
「遠くにCB目黒の皆川っていうのがいるぞ」で終わるより、こういう感情を持った、こういう人なんだなと知ってもらえたほうがいい。そうすれば、自分の力になりたい、関わりたいと思ってくれる人が、きっと増えていく。
だから私は、いつも一言を乗せているんです。
会社からだけでなく、内発的でもあったのは初めて
最近、採用のチームにも入りました。
病院時代を思い返すと、「委員会に入って」と言われて、素直に入る人はほとんどいませんでした。「また仕事が増えた…」というのが正直な反応です。私も、たぶんそうでした。
でも今は違います。心の底から入りたい、力になりたい、自分でちゃんと結果を出したいと思える。
そういう感情になれたこと自体が、すごいことだなと自分でも思うんです。それくらい、この会社は素敵なんだなと。
だから、説明会に来てくださった学生さんにも、自分の口で直接この思いを伝えたい。そう思っています。
一人では、絶対にできないから
在宅で最期を迎える方は、これからもっと増えていきます。
その一人ひとりのご自宅に、思いを乗せて伺う。それは、私一人では絶対にできません。
だからこそ、同じ思いを持った人を増やして、みんなで達成していきたい。
思いを持った方が、これからどんどん入ってきてくれたら、すごく嬉しいです。





